細い細い道をぬけてゆくと、何度かの分岐とカーブのあとにその場所はあった。今度こそは、たどりつけないはずだとおもうのに、なんどくりかえしてもその場所に、たどりついてしまう。
ドアをあけて、深くかぶっていたフードをおろして、目をあげるとオレンジ色の炎がゆらゆらゆれて、そのひとがいる。
そこでは、時間がうごかない。あるときにはロッジのようなものだったし、あるときは(あたかもほんとうに外とつづいているような)夕暮れの景色だった。
「かえってきたね。」
さらされたそのひとの眼も声も、おなじなのに、
「何回もね。」
「そうか、」
そのひとには、時間がながれていることも、わからないのだった。ある日のある時刻で、時間がとまってしまっていて、それはもう、動かないものなのだった。
どこまでも、やわらかいまなざし。時計の秒針はうごかない。ある日のある時刻をさしたままの、それはいつもどおりなのに、
「行ってしまうの?」
私の声は、ふるえていたしそれは、あたしにしかわからなかった。私はあたかも泰然と、そのひとを見つめ返しているみたいだったから。
「いろんなものを見たね。」
あけがたにゆれるもの。夜のなかでひかるもの。昼間のまどろみ。しわだらけのシーツと、風と吸い殻いっぱいの灰皿。ふうりん、網戸、とおい青空。あたしはそこにいたけれど、私はそこにいなかった。私はいつでも、
「このまま、」
「時間は、うごいてしまうから。」
ゆっくりとさがるまなじり、と、いくつもの色がまじりあうような、温度がまじりあう。つづいてゆくもの、を、私がうつせば、えがいておくれば、そのひとがそこにいる、かわりになる、はずだった。へや、をつくることは、できたけれど、止まったまま、の時間のそばには、いられ、なかった、
あたしは時間を止めたまま、私のそばにいた。
私はただ、あなたのかげを、うつしていた、
だけれど。
ゆっくりと、ほどけてゆく、
音にならないなきごえは、ふたつの輪郭をかさねあわせた。ずれ、は、からだのなかでひろがって、とうめいの色をしていた。それが音階になることを、あたしはもう、しっていた。
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このあいだつくったソロの、もとになった(?)文章です。
○。きょうの一曲。○
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