すきなものごと

毎週金曜日、21:00更新。車いすダンサーです。HP:watername.net

へや(短文)

細い細い道をぬけてゆくと、何度かの分岐とカーブのあとにその場所はあった。今度こそは、たどりつけないはずだとおもうのに、なんどくりかえしてもその場所に、たどりついてしまう。

ドアをあけて、深くかぶっていたフードをおろして、目をあげるとオレンジ色の炎がゆらゆらゆれて、そのひとがいる。

そこでは、時間がうごかない。あるときにはロッジのようなものだったし、あるときは(あたかもほんとうに外とつづいているような)夕暮れの景色だった。

「かえってきたね。」

さらされたそのひとの眼も声も、おなじなのに、

「何回もね。」
「そうか、」

そのひとには、時間がながれていることも、わからないのだった。ある日のある時刻で、時間がとまってしまっていて、それはもう、動かないものなのだった。

どこまでも、やわらかいまなざし。時計の秒針はうごかない。ある日のある時刻をさしたままの、それはいつもどおりなのに、

「行ってしまうの?」

私の声は、ふるえていたしそれは、あたしにしかわからなかった。私はあたかも泰然と、そのひとを見つめ返しているみたいだったから。

「いろんなものを見たね。」

あけがたにゆれるもの。夜のなかでひかるもの。昼間のまどろみ。しわだらけのシーツと、風と吸い殻いっぱいの灰皿。ふうりん、網戸、とおい青空。あたしはそこにいたけれど、私はそこにいなかった。私はいつでも、

「このまま、」

「時間は、うごいてしまうから。」

ゆっくりとさがるまなじり、と、いくつもの色がまじりあうような、温度がまじりあう。つづいてゆくもの、を、私がうつせば、えがいておくれば、そのひとがそこにいる、かわりになる、はずだった。へや、をつくることは、できたけれど、止まったまま、の時間のそばには、いられ、なかった、

あたしは時間を止めたまま、私のそばにいた。

私はただ、あなたのかげを、うつしていた、

だけれど。

ゆっくりと、ほどけてゆく、

音にならないなきごえは、ふたつの輪郭をかさねあわせた。ずれ、は、からだのなかでひろがって、とうめいの色をしていた。それが音階になることを、あたしはもう、しっていた。

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このあいだつくったソロの、もとになった(?)文章です。

 

○。きょうの一曲。○

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