すきなものごと

毎週金曜日、21:00更新。車いすダンサーです。HP:watername.net

エトセトラ(短文)

その子に会うためには、いつくかのドアの鍵を、つくりださなくてはいけなかった、

ドアの数に規則性はない。まれに、鍵がかかっていないドアもある。鍵がかかっていないことに気づかずに、鍵をつくりだそうとすると、ガチャリと錠前が、おりるのだった。

わたしは慎重に耳を澄ませながら、ひとつひとつのドアをあけていく。いつでもこれが最後であるかのように、向き合う必要があった。

そこに降りていくときに、たくさんの、きれいなもの、を、手土産として持っていくことにしていた。それはあるいは、鍵のもとになるものだった。わたしの手のひらのなかで、それらは鍵のすがたにかたちをかえる。

空気からあつめたものでつくったワンセンテンス、が、鍵のかたちになることもあった。辛抱強く、指先をくるくるとまわしながら、たった一度しかつかえない鍵を、いくつもいくつも、つくり出していた、

ほんとうのことをいえば、それはとても手間のかかる作業だった。

その場所に降りていくことにさえ、禊が必要で、はりついたものをふりおとすのだけで時間が要ったし、いちど「そこ」に降りていってしまえば、時計の刻む時間は意味を持たなくなる、

ただみずのながれのように、思考のながれがあるだけだ。流されないようにもってゆけるのは、心臓の音だけだった。

さらに厄介なことに、入り口は変則的にしかあらわれない、

事柄が、あるいはいきものが、鏡にすがたをかえて、そこに降りていくためにはその、鏡をとおりぬけなくてはいけないのだった。「わたし」にとって忌むべき者が、鏡の役割を果たすこともあった。

たとえば虹があらわれるように、それは選べないこととして、とおりみち、をえがきだすのだった。

そうしていくつもの手順、ののちにたどり着いた部屋に、

窓があった。はじめは、壁に描かれた絵、だとおもった。そこには「そと」に続くものはなにひとつなく、だからこそ厳重だったのだから。

だけれどやわらかいひかりがさしたので、それが窓であることが、わかった、

その子はいつものように、部屋のどこかに、隠れている。

その部屋は、たったひとつしかないはずなのに、いくつのもの箱庭がつくられていたから、注意深く歩みをすすめないと、わたしは箱庭の住人に、なってしまう、

その子は、箱庭のなかにはいない。それをつくったのは、その子だからだ。

窓辺に歩みをすすめて、足元にその子がぺったりと、はりついているのに気づいた。気づかないふりをした、

なみだ、の湿度がわたしの足をぬらしていた。わたしはちいさくひらいた窓、から、あわい黄色、が、さしこむことを。

子どもをそだてるのと、おなじようなこととして、

時間を、そのことのためにつかうことを決めた。そうしないと、部屋におりていくことさえ、出来なかったから。

それがもうすぐ、終わるのだと。箱庭がひとつずつ、空気にほどけていくことを、

足元のちいさなあたたかさ、が、液体になってゆくことを。

窓のそとのてっぺんにはよるが残っていて、星がさかさまにながれていた、

やがて還ってゆくように。

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ネタにしようとして、ボツったやつ。
もっとあかるいものをつくります……!

○。きょうの一曲。○
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