すきなものごと

不定期で金曜日、21:00更新。車いすダンサーです。HP:watername.net

なみとなみだ(B2F)(短文)

なみだでいっぱいになった部屋、は、なかなかひらかなかった。

それは外から開くことができるものではなかったから、ノブを数回まわす、

それが星になって、なみだをゆらしていた。

みずうみは、森の深くにあった。

湖面はとうめいにゆれていて、そばには角が生えた白い馬、と、白くやわらかな服を着た子どもがいた、

それらはふたつとも、おなじものだった。みずに触れることはなく、ただゆれる波紋をながめていた。

時間はめぐる。だけれど、時間の輪はとじたままだったからそこはいつでも、晴れた春の日のままだった、

空はいつでも、抜けるように青かった。雲はおなじかたちのままで、動きを止めていた。みずうみだけが、息をしていた。

みずは、隠された場所にあった。それらはながれる空気にはふれないものだった、まんいちすがたをあらわしても、それらは別のものにかたちを変える。そういうまじないが、かけられていた。

たとえば宇宙の向こう側にある星に、ゆれるものをほんとうには、たしかめられないのとおなじように、

それらは忘れ去られた場所で、みずをゆらしている。最後のちかく、それには、海というなまえが、つけられていた。

みずはただ、おなじようにゆれていた。ながれてゆく時間の先でも、それらはただゆれているのだった。とどめ置く場所のちがいが、なみだになりみずうみになり、海になり空になった。

みずを失ったひとたちについてのこと。あるいは、忘却したひとたちのこと。

永久機関がなければ動力はまわらない。だからそれは失われるものでは、ないのだけれど、

みずが別のものに変質することがあった。それらを濾過するには、木立が雫を落とすための膨大な時間が、必要だったから。

濾過する代わりに、汲み出そうとするのだった。よそで汲み出したものは、次元を超えたときに変質する。だからそれがうまくいくことは、なかったのだけれど、

色はふたつをまぜると、虹のようになった。(ガソリンをうかべたみずたまり、のように)それには「透明」というなまえが、ついていた。

そのものとしてのみず、は、いつでもそこにあった。変質したとしても「とうめい」だったけれど、 

それにはめかくしが、されていた。

忘却したものたちは、なまえをもたないものたちになる。なまえをもたないものたちは、やがて影になる。

○○が失われた場所では、それらはすべて、おなじものだった、

いくつものそれらがやがて動かなくなるのは。

みずうみのそばでは、時間が閉じていた。失われた場所では、まぼろしのように四角が積み上がりつづけ、時計はおなじように、まわりつづける。永久機関に似せたそれをつくった者たちは、もしかしたらとても、

長くするつもりだったけど、ならなかったのでこちらへ。そのうちなんかにつかうやも。