あたしは、かたちないものだった、
いろいろなものを口にして、咀嚼して、だけれど、かたちないもののままだった。
だからあのひと、に、ぱくり、と、口をつけて、
ひとつひとつ咀嚼した。ぜんぶを、知りたかった。
あたしはすこしずつ、かたちあるもの、になった、
だけれどはなれるとまた、かたちないもの、に、なるのだった。
みず、をのむのとそれは、おなじことだった、
それが、あのひと、にとってどういうことか、なんて、考えもせずに。
かたちないもの、に、なってしまうので、
また、ぱくり、と、口をつけて。
たくさんたくさん、のみほした。のみほしたら、言葉になった、
夢中になってくりかえした、だけれどはじめのとき、みたいに、ふかくふかくが満たされることは、もうなかった。
のみほしたものを、くみあわせて、編み上げて、すがたをつくった。
だけれど、水鏡のようなひとみ、は、すこしもゆらがずに、
そうっと殺そうとしていたものはただ、あたしのかたちを、していた。
自分がなにをしてきたのか、を、理解して怯え、て、
私は、私になった。
からだの輪郭をなぞると、それは液体ではなく気体でもなく、
ふかくふかくに、ちいさな世界が出来ていた。
ひとみを閉じると、液体が、波打つ、
いくつもの、記憶は断片で、身体はそれらを水滴のように、記憶していた。
感触の気配は、からだの輪郭をなぞらえて、
音もなく、重なり合って。ぱりりと、とろけるうみに。